最近のヨーロッパについて考える
ウクライナ侵攻以降、英国とヨーロッパともに元気がない。たまたま元気がなくなるタイミングが同じになっただけなのか、それともウクライナ侵攻が原因で元気がなくなったのかはわからないが、今回のコラムでは現在のヨーロッパの問題点について改めて考えてみたい。
ポスト・メルケルのドイツ
2021年9月のドイツ総選挙でメルケルさんの後任首相となったショルツ氏。就任直後は鳴かず飛ばずであった。今年2月には、総選挙で第一党となった同首相所属SPD党の支持率が、メルケル前首相が所属していたCDU党を下回ったこともあり、連立政権の先行きに不安の声が挙がった。これについては、16年も続いたメルケルさんの後任と言うことで、就任最初の2ヶ月で功績を残す事は難しく、ある程度は仕方なかったのかもしれない。
しかしそこに突如として発覚したロシアによるウクライナ侵攻。これをきっかけに、ドイツは歴史的な政策の方向転換に踏み切った。
ウクライナ侵攻のわずか3日後、ショルツ首相は議会で防衛費を1000億ユーロ追加すること、ウクライナへの武器供与を認める方針、国防費をGDP比で2%に引き上げること、2箇所のLNGターミナルを新設することなどを発表し、外交と安全保障面で驚くような変更を発表した。メルケル前首相時代には何年かけても達成できなかった国防費増額が、あっという間に実現したのである。
今までのヨーロッパの安全保障については、(英国がEU加盟していた当時は英国と)フランスが軍事を担当し、ドイツは口を出さずにお金だけ出す国であった。しかしウクライナ侵攻をきっかけに、お金も出すが口も出す国に大変身したのである。この政策転換に最も驚いたのはフランスかもしれない。これはあくまでも私の印象であるが、マクロン仏大統領は安全保障を筆頭に、メルケル氏引退後のヨーロッパを引っ張って行こうと企んでいたと感じている。そのタイミングで、ドイツがいきなり変わってしまったのは、計算違いだったのかもしれない。
フランス総選挙
日本ではあまりニュースになっていないが、6月12日と19日にフランス総選挙が実施された。その2ヶ月前に行なわれた大統領選挙では、マクロン大統領 58.54% vs ルペン候補 41.46%となり、2期目の大統領就任を果たしたばかりだった。
これに気を良くしたのか、6月の総選挙ではマクロン大統領は選挙キャンペーンには非常に消極的で、それが投票結果に大きく反映したとも言われている。
気になる総選挙結果は、議会総議席:577(過半数:289)のうち、マクロン大統領所属のLREM党は過半数割れしたのである。1988年以来はじめて、大統領所属政党が過半数割れという大惨事となった。
代わりに票を伸ばしたのが、今年5月に出来上がったばかりの左翼や共産主義系連合と、極右のRN党である。RN党のルペン候補は大統領選では敗れたものの、総選挙では最も輝く存在となった。
この選挙結果を見て感じたのは、英国も政治危機の真っ只中で国民は将来に不安を感じているが、フランスの有権者も相当不満を溜め込んでいるのは間違いないということである。
深刻なガス不足、配給制リスクも
ロシアのガスプロムがヨーロッパへのエネルギー供給で使っているノルド・ストリーム1のパイプ修復工事をしている。その一部の修復に時間がかかっているらしく、6月中旬に突如としてイタリア、ドイツ、フランス、オーストリアへのガス供給を最大6割削減すると発表した。
そして先週、ドイツやスウェーデン、イタリアなどの国々がエネルギー緊急措置の第2段階に入ると発表。
これは第3段階からなるEU共通の緊急措置で、第1段階はエネルギーの節約を心がけること。第2段階となると、エネルギー供給が追いつかないので、供給会社が顧客への値上げを認める法律が有効となること。最後の第3段階では「緊急事態」と認識され、最悪のケースでは企業や世帯への配給制となるようである。
今の時期は特にガスの使用量が減るので、冬のシーズンに備えて備蓄に励む時期だが、供給量の6割削減となってしまい、ヨーロッパ各国は完全にパニック状態である。
このまま行けば、冬のシーズンは企業へも思うようにエネルギーが供給されず、工場の一時閉鎖や生産過程の中止・遅延は覚悟せざるを得ないだろう。当然であるがヨーロッパ全体の景気減速は予想以上に悪化し、7月から始まる欧州中銀(以下、ECB)の利上げがボディブローのように効いてくるかもしれない。
6月22日にはIEA(国際エネルギー機関)のヘッドが、今はまだ夏だから大丈夫かもしれないが、冬に近づけば近づくほど、ロシアはガスを武器にヨーロッパをジワジワと苦しめてくるだろう と語った。 全くその通りだと私も思っている。
私が住む英国よりも寒い国が続くヨーロッパ。企業への供給が減り景気減速となるのも嫌ではあるが、9月から暖房が必要となる地であるため、一般家庭までもが配給制となると、人間の生きる質にも影響が出てくる。
かなり先行きが心配である。
ここからのECB
アメリカや英国同様、ECBの金融政策決定における優先順位が、「インフレの沈静化 > 景気」となっており、長年続いた緩和政策からの出口戦略に踏み切ることになる。最初は7月に25bpsの利上げとなるであろう。9月には50bps利上げという話しも出てきており米英にはだいぶ遅れを取ったが、やっと「正常運転」開始となるようだ。
そうは言っても上述の通り、秋・冬からのエネルギー消費シーズンにガス不足が深刻化した場合、景気は一気に冷え込むことが予想され、果たしてどの程度の積極性を持って利上げを断行するのかについては、不透明感が高い。
現在はECBのタカ派・ハト派ともに利上げに積極的であるが、いざ景気が冷え込めばハト派の理事達の反対が予想される。
個人的には秋以降のECBの政策内容は、エネルギー事情に大きく左右される気がしてならない。
ここからのユーロ
こちらに添付したのは、ユーロ/ドルとポンド/ドル それぞれの月足チャート。最新2ヶ月の月足にグレーのハイライトを入れた。どちらの通貨ペアも底固めしているように見えて仕方がない。
「底固めしていると思うのであれば、買えばよいじゃないか!」と言われそうである。ポンドは既に買っている。問題はユーロだ。
次は、それぞれの通貨の実効レートのチャート。1999年にユーロが誕生してから現在までのものである。50%のレベルに横線を入れた。
ご覧のようにユーロはまだまだかなりの高値圏にいるのが分かる。それに対し、ポンドは安値圏にいる。
もしかしたらECBはインフレ退治の目的で、ユーロ高を容認するだけでなく、ユーロ高になるように口先介入をするかもしれない。ただ、それが出てこない限り、実効レートから見るとどうしてもポンド買いに安心感がでてしまうのである。
そうは言っても、ここからの英国は政治危機と経済危機が同時進行する中で、政策金利の引き上げが行なわれる。問題山積みと言う点ではユーロもポンドもどちらにも軍配があげられないことには変わりないのかもしれない。一寸先は闇と肝に銘じながらマーケットを見ていくつもりである。
出典: 欧州中銀、英中銀
https://www.ecb.europa.eu/stats/balance_of_payments_and_external/eer/html/index.en.html
https://www.bankofengland.co.uk/boeapps/database/fromshowcolumns.asp?Travel=NIxAZxSUx&FromSeries=1&ToSeries=50&DAT=RNG&FD=1&FM=Jan&FY=1999&TD=31&TM=Dec&TY=2025&FNY=Y&CSVF=TT&html.x=66&html.y=26&SeriesCodes=XUDLBK67&UsingCodes=Y&Filter=N&title=XUDLBK67&VPD=Y
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ロンドン在住の元為替ディーラー。東京でスイス系銀行Dealing Roomで見習いトレイダーとしてスタート。18カ月後に渡英決定。1989年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年シティーにある米系投資銀行に転職。その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。